株式会社を立ち上げ取締役になっても、「何をしたらいいか分からない!」という方もおられるかと思います。
取締役の責任や役割は複雑であるため、知識がないまま取締役になると大変です。
今回は、取締役の仕事や役割、責任範囲などについてお伝えします。
株式会社設立をお考えの方や、取締役についてご興味のある方はぜひお読み下さい。
取締役の善管注意義務・忠実義務とは?
取締役は、株式会社に対して善良な管理者として注意する義務を負います。 (会社法第330条、民法第644条)
これを善管注意義務といい、その責任範囲はその地位の者に通常期待される程度に注意する義務。
取締役に通常期待される注意義務には、会社の経営判断や、従業員の労務管理に関するものなどがあります。
取締役は株主から会社の運営を任される立場のため、会社運営の知識や実力が求められます。
つまり、取締役が「自分は最善を尽くした」と考えるだけでは足りません。
客観的にも、取締役として通常期待される程度の注意義務を果たしている必要があります。
もし従業員が第三者に損害を与えると、取締役は従業員の監督者として賠償責任を負います。
従業員の教育を部下に任せていたことは、取締役の責任を免除する理由になりません。
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その他、取締役には、会社に対する忠実義務があります。
取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。 |
忠実義務と善管注意義務は似ています。
しかし、忠実義務には「他の利益を優先して、会社の利益を犠牲にすることは許されない」という意味が含まれます。
取締役の説明義務とは?
株式会社を設立すると、会社は定期的に株主総会を開かなければなりません。
定時株主総会は各事業年度の終了後、一定の時期に招集し、臨時株主総会は必要があればいつでも招集できます。(会社法第296条)
株主から経営を任されている取締役は、原則、株主総会に出席しなければなりません。
株主総会において、株主からの質問に答えるのが取締役の説明義務です。
会社法第314条(取締役等の説明義務)取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない。ただし、当該事項が株主総会の目的である事項に関しないものである場合、その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合は、この限りでない。 |
取締役が株主への説明を怠った場合、株主総会決議の取消事由となります。(会社法第831条1項1号)
なお、以下のような場合は取締役の説明義務が免除されます。
会社法施行規則第71条(取締役等の説明義務) 法第314条に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
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いわゆる、正当な理由がある場合や、株主がクレーマーや総会屋などの場合ですね。
ただし、取締役が正当な理由なく株主からの説明を拒んだ場合、100万円以下の過料に処せられることもあるためご注意ください。(会社法第976条9号)
競業取引・利益相反取引の制限とは?
取締役は、会社の利益を害する競業取引や利益相反取引に関して制限を負います。
競業取引とは、会社の事業と同じか、会社の事業と類似する取引を行うこと。
利益相反取引は、会社から取締役が個人的に貸付を受けるような、会社との間で利害が対立する取引を指します。
なお、競業取引や利益相反取引は絶対的に禁止されるわけではありません。
取締役会(取締役会を置いていない会社では株主総会)の承認を得れば、競業取引や利益相反取引を行うことは可能です。 (会社法第356条)
また、競業取引等は、取締役を退任した後であれば基本的に制限されません。
しかし、会社と競業避止義務特約を結んでいたり、退社した会社の機密情報を利用した場合などは責任を問われる場合があります。
[getpost id=”632″ title=”関連記事” ]取締役の利益供与禁止義務とは?
株式会社は、「株主の権利に関する事項」について、違法な利益供与(いわゆるワイロ)をすることが禁止されます。 (会社法第120条)
株主の権利に関する事項とは、株主総会における発言権や、取締役の責任を追及する権利など。
利益供与が禁止される相手は、現在の株主に限られません。
これから株主になろうとする者や、総会屋などが指定する第三者に対しても同様です。
ただし、株主の議決権に応じて日常的な範囲内の会食や、中元・歳暮を行うことは問題ないと解されています。
取締役の賠償責任とは?
会社と取引を行おうとする場合、取引先は法人登記簿により取締役の実在を確認します。
法人登記簿に名前が載っている以上、取引先がきちんとした取締役であると考えるのは自然なこと。
そのため、以下のような場合でも、取引先に損害が発生すれば取締役は賠償責任を問われます。
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取締役が無過失であれば責任を負いませんが、無過失であったことは取締役に立証責任がありますのでご注意ください。
なお、会社に対する責任は、株主全員の同意があれば免除することができます。
しかし、会社の第三者に対する責任は、当然ながら株主全員の同意があっても免責されません。
会社に対する取締役の責任の消滅時効については、判例により10年と考えられています。
このような役員の訴訟リスクに対応するため、会社役員責任賠償保険(D&O保険)を販売している保険会社も存在します。
取締役の役割や責任範囲についてまとめ
取締役の責任を果たすためには、取締役は定款や株主総会議事録、計算書類等の内容を充分に把握しておくことが大切です。
法定書類が整備されていない中小企業もありますが、取締役に就任してから慌てないようご注意下さい。
西宮の司法書士・行政書士今井法務事務所では、株式会社設立から法定書類整備まで、企業法務全般を取り扱っております。
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