平成25年9月4日、嫡出でない子の相続分について、最高裁で違憲決定が出されました。
これは、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする民法の規定が憲法に反していると判断されたものです。
その後、上記の決定を踏まえ、相続法制の見直しが行われました。
今回は、原則2019年(平成31年)7月1日に施行期日が定められた、民法等の改正法について説明します。
配偶者の居住権を保護するための権利が新設(施行期日:2020年(平成32年)4月1日)
配偶者短期居住権(新民法1037条-1041条)
配偶者が相続開始の時に遺産に属する建物に無償で居住していた場合、以下の一定期間、無償でその居住建物を使用できるようになります。
- 配偶者が居住建物の遺産分割に関与するときは、居住建物の帰属が確定するまでの間(ただし、最低6ヶ月間は保障)
- 居住建物が第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄をした場合には、居住建物の所有者から消滅請求を受けてから6ヶ月
この制度の創設により、被相続人が居住建物を遺贈した場合や、反対の意思を表示した場合であっても、
常に最低6ヶ月間は配偶者の居住が保護されるというメリットがあります。
なお、現行では、配偶者が相続開始時に被相続人の建物に居住していた場合には、原則として、
被相続人と相続人との間で使用貸借契約が成立していたと推認されます。(最判平成8年12月17日)
しかし、この判例では、第三者に居住建物が遺贈されてしまった場合や、被相続人が反対の意思を表示していた場合などは、
使用貸借が推認されないため配偶者の居住が保護されないという問題がありました。
配偶者居住権(新民法1028条-1036条)
配偶者の居住建物について、終身または一定期間、配偶者にその使用を認める法定の権利が創設されます。
また、遺産分割や被相続人の遺言等において、配偶者に配偶者居住権を取得させることができるようになります。
現行制度では、配偶者が居住建物を取得する場合、預貯金など他の財産を受け取れなくなってしまうという問題がありました。
しかし、制度導入により、「居住建物の負担付所有権」は他の相続人が取得し、配偶者居住権は配偶者が取得するといった方法が可能となります。
なお、建物の負担付所有権の価値評価については、男女の平均余命を前提に計算する簡易な評価方法を用いる方法があります。
遺産分割等に関する見直し
配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示推定) (新民法903条④)
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産の遺贈または贈与がされたときは、持戻しの免除の意思表示があったものと推定し、
被相続人の意思を尊重した遺産分割ができるようになります。
この制度が設けられた理由は、こういった場合における遺贈や贈与は、配偶者の長年にわたる貢献に報いるとともに、
老後の生活保障の趣旨で行われる場合が多いためです。
現行制度では、夫婦間で贈与等を行ったとしても、原則として遺産の先渡しを受けたものとして取り扱うため、
配偶者が最終的に取得する財産額は、結果的に贈与等がなかった場合と同じになるという問題がありました。
制度導入により、原則として遺産の先渡しをされたものと扱う必要がなくなるため、配偶者は、より多くの財産を取得することができます。
遺産分割前の持戻し制度の創設等(新民法909条の2)
相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払い、または相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう、
遺産分割前にも持戻しが受けられる制度が創設されます。
現行制度では、平成28年12月19日の最高裁大法廷決定により、相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に
含まれることになり、共同相続人による単独の持戻しができないとされています。
しかし、相続人に資力がない場合や相続人間で紛争がある場合、生活費や葬儀費用の支払い、相続債務の弁済などが
滞ってしまうという問題がありました。
新制度の導入により、家庭裁判所の判断で仮払いが必要と認められた場合には、他の共同相続人の利益を害さない限り、
預貯金債権の仮払いが認められるようになります。(家事事件手続法の改正)
また、家庭裁判所の判断を経なくても、預貯金債権の一定割合であれば、金融機関における支払いが受けられるようになります。
単独で払戻しができる額は、各口座ごとに以下の計算式で求められる額です。(ただし、同一の金融機関に関しては150万円を限度)
例えば、預金が600万円で相続人が子2人の場合、子の1人が払戻しできるのは100万円となります。
【計算式】600万円☓3分の1☓2分の1=100万円
遺産の分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲(新民法906条の2)
相続開始後に共同相続人の一人が遺産に属する財産を処分した場合、計算上生じる不公平を是正する方策が設けられます。
現行制度では、特別受益を受けていた相続人が遺産分割前に遺産を処分した場合、他の相続人にとって不公平な結果が生じます。
民事訴訟においても、具体的な相続分を前提として不法行為・不当利得による請求は困難なため、処分者の利得額が大きくなってしまいました。
新制度導入により、処分された財産につき遺産に組み戻すことについて処分者以外の相続人の同意があれば、
処分者の同意を得ることなく、処分された預貯金を遺産分割の対象にすることが可能となります。
そのため、共同相続人による不当な出金がなかった場合と同じ結果を実現できることとなりました。
遺言制度に関する見直し
自筆証書遺言の方式緩和(新民法968条)
自筆でない財産目録を添付して、自筆証書遺言が作成できるようになります。(施行期日:2019年(平成31年)1月13日)
現行制度では、自筆証書遺言を作成する場合は全文を自書する必要があり、
また財産目録も全文を自書しなければならず、財産の多い遺言者には相当な負担がありました。
新制度の導入により、自筆証書遺言に、パソコン等で作成した目録を添付したり、預金通帳のコピーや
不動産の登記事項証明書等を目録として添付したりして遺言を作成することができるようになります。
なお、その際は財産目録には署名押印をしなければなりませんが、偽造を防止できるメリットがあります。
遺言執行者の権限の明確化(新民法1007条、1012条-1016条)
遺言執行者の一般的な権限として、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした
行為は、相続人に対し直接その効力が生じることが明文化されます。
また、いわゆる相続させる旨の遺言のうち、遺産分割方法の指定として特定の財産の承継が定められたものが
された場合における遺言執行者の権限等が明確化されます。
公的機関(法務局)における自筆証書遺言の保管制度の創設(遺言書保管法)
法務局における自筆証書遺言の保管制度については、以下の記事にまとめております。(施行期日:2020年(平成32年)7月10日)
[getpost id=”2025″ title=”関連記事” ]遺留分制度に関する見直し(新民法1042-1049条)
遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている現行の規律が見直され、
遺留分権の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生じるものとします。
また、金銭を直ちに準備できない受遺者や受贈者の利益を図るため、受遺者等の請求により、
裁判所が金銭債務の全部または一部の支払いにつき相当の許与を設けることができるようになります。
現行制度では、遺留分減殺請求権の行使によって、土地建物等に共有状態が生じ、事業承継等の支障に
なっているという指摘がありました。
また、遺留分減殺請求権の行使によって生じる共有割合は、目的財産の評価額等を基準に決まるため、
通常は分母・分子ともに極めて大きな数字となり、持分権の処分に支障が出るおそれがあります。
新制度導入により、遺留分減殺請求権の行使により共有関係が当然に生じることを回避することができます。
また、遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたいという遺言者の意思を尊重することができるのがメリットです。
相続の効力等に関する見直し(新民法899条の2)
相続させる旨の遺言等により承継された財産については、登記等の対抗要件なくして第三者に対抗できるとされていた
現行法の規律が見直されます。
法定相続分を超える権利の承継については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないようになります。
現行制度では、相続させる旨の遺言等により不動産を取得した相続人の権利が常に優先されるため、
遺言の内容を知りえない相続債権者等の利益を害するという問題がありました。
登記制度や強制執行制度の信頼を害するというおそれもあったため、改正後は相続させる旨の遺言についても、
法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を具備しなければ債務者や第三者に対抗することができません。
相続人以外の者の貢献を考慮するための方策(新民法1050条)
相続人以外の被相続人の親族が、被相続人の療養看護等を行った場合には、一定の要件のもと、
相続人に対して金銭請求をすることができる制度(特別の寄与)が創設されます。
また、特別の寄与の制度創設に伴い、家庭裁判所における手続規定(管轄等)が設けられます。
現行制度では、相続人以外の者は、被相続人の介護に尽くしても、相続財産を取得することができません。
しかし、新制度により、相続人以外の者の介護等の貢献に報いることができ、実質的公平が図られます。