退職後の競業避止義務とは?
役員や従業員が転職・退職後に競業することを禁止したい場合、会社はどうすればよいでしょうか。
そもそも、在職中の競業については、取締役は法令上禁止義務を負っています。(会社法第356条)
また、明文の規定はありませんが、従業員も同じく競業避止義務があるとされています。
しかし、退職後は、役員も従業員も当然に競業避止義務を負いません。
そのため、退職後の競業を禁止させたい場合、競業避止義務を定めた誓約を取り交わすのが一般的です。
誓約を取り交わすことで、損害賠償請求や競業行為の差止請求が可能となります。
しかし、誓約内容によっては誓約自体が無効となりかねません。
退職後の競業を禁止する場合、誓約内容が公序良俗に違反していたり、過度に職業選択の自由を制限していないかの注意が必要です。(民法第90条、憲法第22条)
退職後の競業避止義務を定める場合の注意点
以下のような場合、退職後の競業避止義務が無効とされる可能性があります。
役員・従業員に強制的に誓約させた場合
役員や従業員の意思に反して強制的に誓約させると、誓約は原則的に無効です。
さらに、悪質と判断された場合は、会社が不法行為責任や刑事責任を負うことも考えられます。
競業避止義務に関する誓約があったと認められない場合
退職後の競業避止義務は、就業規則や役員規程に特約として定められているかもしれません。
しかし、その特約が周知されていなければ、誓約があったと認められない可能性は高いです。
そのため、退職後の競業避止義務については、就業規則や役員規程とは別に誓約書を作成することをお勧めします。
誓約書には、役員や従業員にきちんと説明した上で署名捺印をもらうようにして下さい。
役員・従業員が機密情報に触れる立場になかった場合
退職後の競業を禁止するのは、会社に守るべき営業秘密や情報、法的保護に値するノウハウがあることが前提です。
役員や従業員が機密情報やノウハウに触れる立場になかった場合、そもそも退職後の競業を禁止する理由がありません。
どのノウハウや情報が会社の機密情報に当たるかは、個別に判断することになります。
退職後の競業禁止期間が長すぎる場合
退職後の競業を禁止する期間が長いほど、当事者の権利は制限されます。
判例では、1年以下の競業禁止期間であれば、肯定的に評価されているものが多いです。
場合によっては3年の禁止期間でも理由があると判断されます。
競業禁止期間は、職種や業務内容によって個別に検討するのが原則です。
競業行為を禁止する範囲が広すぎる場合
競業を禁止する地域に限定がない等、禁止範囲が広すぎると誓約が無効になることがあります。
その理由は、過度に職業選択の自由を制限していると考えられるためです。
ただし、全国チェーン店等では、このような誓約が肯定される可能性もあります。
また、競業を禁止する職種や業務範囲が広すぎるのも問題です。
できる限り、会社のノウハウや機密情報と関連する職種のみ、競業を禁止するようご注意下さい。
違約金が高額である場合
競業されたことにより実害があった場合、損害額や損害については会社側に立証責任があります。
しかしながら、損害額の算定は簡単ではりません。
そのため、あらかじめ違約金の額を誓約書に盛り込んでおく場合もあります。
ただし、違約金の金額は会社が勝手に決められる訳ではありません。
あまりにも違約金が高額であると判断された場合、誓約自体が無効になる可能性があります。
競業避止義務特約の誓約における代償措置について
退職後の競業避止を誓約するにあたり、以下のような代償措置が取られることもあります。
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代償措置があることで、退職後の競業避止が肯定的に捉えられる可能性が高まります。
ただし、代償措置があることのみをもって、誓約がすべて有効となる訳ではありません。
退職後の競業避止についてのまとめ
会社としては、退職後の競業避止義務特約が無効とならないよう、細心の注意を払う必要があります。
また、役員・従業員としては、誓約内容に納得できない場合、安易に誓約書にサインしないことです。
退職後の競業避止については、会社と役員・従業員の利益が相反するため、妥協点を見つけるのは容易ではありません。
お困りの場合は弁護士・司法書士・行政書士等の専門家にご相談下さい。
ひな形・文例
【就業規則】 第◯条 従業員は在職中及び退職後6ヶ月、会社と競合する他社に就職及び競合する事業を営むことを禁止する。ただし、会社が従業員と個別に競業禁止義務について契約を締結した場合には、当該契約によるものとする。 |
【誓約書】 1.私は貴社との競業避止に関する特約契約に同意します。貴社を退職した後は、◯◯県、◯◯県下において、貴社と競業する会社に就職することはしません。また、貴社と競業する事業を起業することはしません。この特約は、退職後1年間守ることとします。特約に違反した時は、貴社が要求する損害賠償額を支払うこととします。その代償として以下の特約手当を受け取ります。 |