民事信託・家族信託では、法律の専門用語が数多く使われます。
家族信託で重要な「受託者」(じゅたくしゃ)についても同様。
専門用語は理解しづらいため、それだけで家族信託を敬遠する方もいるかもしれません。
しかし、家族信託は、うまく使えばメリットの大きい制度。
受託者の意味や権限についても、ゆっくり学べばそう難しくはありません。
この記事では、家族信託の「受託者」について、意味や義務・権限をできる限りわかりやすくまとめました。
家族信託に関心を持つ方々の参考になりましたら幸いです。
家族信託の「受託者」とは?
家族信託の「受託者」とは、一言でいうと、委託者の財産管理を任される人。
委託者とは、財産管理を任せる(財産を信託する)人を指します。
委託者から財産管理を任された受託者は、信託目的に沿って、「受益者」のために信託財産の管理・処分等(信託事務)を行います。
受益者とは、信託財産から生じる利益を受ける人です。
例えば、親が自分の財産を子に信託し、信託財産から生じた利益を親が受け取るケース。
このとき、誰が委託者・受託者・受益者でしょうか?
正解は、親が「委託者兼受益者」、子が「受託者」です。
このように、委託者と受益者が一緒になるケースは珍しくありません。
委託者と受益者が一緒のケースを「自益信託」、委託者と受益者が別のケースを「他益信託」と言います。
他益信託では、信託事務における登場人物が、自益信託と比べて1名以上増えます。
そのため、受託者の作業としては、他益信託より自益信託の方が若干楽でしょう。
受託者になれる人は?
家族信託において、受託者になれる人は限定されており、
以下の者は受託者になることが禁止されています。(信託法第7条)
・成年被後見人
・被保佐人
そのため、受託者が後見開始又は保佐開始の審判を受けた場合、受託者の任務は終了します。
なお、法人(株式会社・一般社団法人・NPO法人等)も受託者になることができます。
法人には成年被後見人や被保佐人という概念がないため、将来のリスクを考え、法人を受託者にするケースもあります。
「受託者」の権限にはどんなものがある?
受託者の権限には、以下のようなものがあります。
・賃貸など収益物件の運用
・信託契約に基づく不動産・株の購入
・銀行からの借り入れ
・賃貸など収益物件の運用
・信託契約に基づく不動産・株の購入
・銀行からの借り入れ
受託者の権限は、信託行為により制限することも認められます。(信託法第26条)
なお、家族信託と比べ、成年後見制度では、後見人は管理財産の運用・処分が容易に認められません。
賃貸物件の管理・運用や不動産の購入等をする必要がある場合は、成年後見制度より家族信託の方が使いやすいでしょう。
逆に、受託者の事務が財産管理だけの場合など、後見制度を利用した方がいいケースもあります。
受託者は、信託義務を第三者に任せて問題ない?
受託者は、委託者から信頼されて信託財産を預かる立場です。
「自分の財産は受託者がきちんと管理してくれるだろう」と委託者が考えるのはもっとも。
そのため、原則、受託者は信託事務を第三者に任せることはできません。
例外的に、以下のような場合、受託者は第三者に信託事務を委託することができます。
二 信託行為に信託事務の処理の第三者への委託に関する定めがない場合において、信託事務の処理を第三者に委託することが信託の目的に照らして相当であると認められるとき。
三 信託行為に信託事務の処理を第三者に委託してはならない旨の定めがある場合において、信託事務の処理を第三者に委託することにつき信託の目的に照らしてやむを得ない事由があると認められるとき。
やむを得ない場合としては、不動産の名義変更を司法書士に委任すること等が考えられます。
どこまでを受託者が行い、どこから第三者に任せるかを事前に決めておくことは重要です。
「受託者」の義務にはどんなものがある?
受託者には、善管注意義務・忠実義務などの様々な義務があります。
細かくなりますが、これら受託者の義務について順番に解説します。
善管注意義務(信託法第29条)
受託者は、善良な管理者の注意をもって、信託事務を処理しなければなりません。
善良な管理者の注意義務とは、「業務を委任された人の職業や、専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務」を指します。
例えば、受託者が不動産の管理を任されているのに、賃料未払いを放置していた場合など。
なお、善管注意義務は、信託行為で別段の定め(軽減・加重)をすることも可能です。
忠実義務(信託法第30条)
忠実義務とは、「真心をもってよく務めること」や「内容をごまかしたりせずに示すこと」といった意味です。
利益相反行為の制限(信託法第31条)
受託者は、信託財産について自分の利益を図り、委託者の不利益になる行為をしてはいけません。
たとえば、親(委託者)と子(受託者)が同居する家を、信託財産で修繕しようとする場合などが考えられます。
この場合、子供は金銭的な支出なく、資産価値の向上した家に住めることになります。
もし理由なく信託財産を費消した場合、利益相反行為として問題になりかねません。
なお、そもそも利益相反行為を許容する旨の定めがあったり、受益者の承認を得たとき等は利益相反行為の制限は受けません。
上記の場合も、事前に許容する旨の定めをおくことなどが望まれます。
公平義務(信託法第33条)
受益者が2人以上いる信託では、受託者は、受益者のために公平に職務を行わなければなりません。
分別管理義務(信託法第34条)
受託者は、信託財産と自己の固有財産を分けて管理する義務があります。
現金であれば、信託用の銀行口座を新たに開設して入金するのが通常です。
分別管理の方法については、別段の定めをおくこともできます。
ただし、不動産など信託の登記・登録ができる財産については、原則、登記・登録の義務を免除することはできません。
第三者の選任及び監督に関する義務(信託法第35条)
受託者が信託事務を第三者に委託するときは、第三者を適切に選任及び監督をする義務があります。
報告義務(信託法第36条)
委託者や受益者は、受託者に対し、信託事務等についての報告を求めることができます。
帳簿等の作成・報告・保存の義務(信託法第37条)
受託者は、毎年一回、一定の時期に、貸借対照表、損益計算書等を作成しなければなりません。
作成された帳簿等は、原則、受益者(又は信託管理人)に報告すると共に、十年間保存する必要があります。
受益者は、受託者に対して帳簿等の閲覧を請求することができます。(信託法第38条)
「受託者」の責任範囲は?
受託者には、信託財産に損失が生じた場合の損失てん補責任があります。(信託法第40条)
また、信託財産の内容に変更が生じた場合、原状回復する責任を負います。
法人が受託者となっている場合は、受託者の理事や取締役等に悪意または重大な過失があるときは、受託者は法人と連帯して責任を負います。
なお、受益者は受託者の責任を免除することもできます。(信託法第42条)
「受託者」の費用や報酬はどうなる?
受託者は、信託事務のために要した費用を自己の固有財産から支出した場合、
信託財産からその費用の償還を受けることができます。(信託法第48条)
なお、信託財産が費用の償還を受けるのに不足していればどうなるでしょうか。
この場合、受託者は、委託者及び受益者に「費用の償還や前払いが受けられなければ辞任する」旨を通知します。
その後、相当の期間を経過しても委託者又は受益者から費用等の償還又は前払いを受けることができなければ、受託者は信託を終了させることができます。(信託法第52条)
受託者の信託報酬は、家族信託では無報酬とすることも多いです。
なお、信託報酬は、信託報酬を受ける旨の定めがある場合に限り受けることができます。(信託法第52条)
「受託者」の変更について
受託者の任務は、死亡、後見開始又は保佐開始の審判、破産手続開始決定、辞任、解任などにより終了します。
なお、受託者は信託財産を管理するだけの立場です。
そのため、受託者が死亡しても、信託財産に対して相続税がかかることはありません。
受託者が死亡した場合、受託者の地位は相続されず、信託財産の保管義務のみを負います。(信託法第60条)
受託者の任務が終了した場合、新たな受託者は、以下のように決定されます。
・新たな受託者がいない場合は、委託者と受益者の合意。(信託法第62条1項)
・裁判所が必要と認めるときは、利害関係人の申立により裁判所が決定。(信託法第62条4項)
・委託者がいない場合は、受益者が単独で決定。(信託法第62条8項)
もし受託者が欠けたまま1年経過した場合、信託は終了します。(信託法第163条3号)
受託者の任務終了リスクに対処するため、株式会社等の法人を受託者とすることも一つの方法です。
家族信託「受託者」についてまとめ
民事信託(家族信託)では、家族・親族を受託者に選ぶことが多くあります。
受託者の事務(信託事務)は、複雑に思えるかもしれませんが、専門家の助けを借りることも可能です。
司法書士・行政書士今井法務事務所では、家族信託・生前対策に関するご相談を数多く受けております。
お問い合わせは無料ですので、お気軽にご相談ください。