成年後見制度は、判断能力が不十分な方(被後見人)を保護し、その財産管理や契約手続きを適切に行うための制度です。成年後見人に選任された場合、被後見人の代理としてさまざまな契約や行政手続きを行うことになりますが、特に「署名・押印」の方法については、誤解や不適切な対応が発生しやすいポイントです。
本記事では、成年後見人がどのように署名・押印を行うべきか、また、取引先や金融機関などから「被後見人の印鑑を押すように」と求められた場合の適切な対応方法について詳しく解説します。
成年後見人の署名・押印の基本ルール
成年後見人が被後見人に代わって契約書などに署名・押印を行う際には、以下のように記載し、押印する必要があります。
1. 署名の方法
成年後見人が代理人として署名する場合、書類には以下のように記載します。
「〇〇〇〇(被後見人の氏名)成年後見人 △△△△(成年後見人の氏名)」
例:
「山田太郎 成年後見人 今井康介」
この表記により、成年後見人が被後見人を代理して手続きを行っていることが明確になります。
2. 押印の方法
成年後見人が署名をした後、押印する印鑑は「成年後見人自身の印鑑」のみです。
被後見人の印鑑(実印・銀行印など)を押す必要はなく、また、勝手に押印することもできません。
× 押してはいけない印鑑
- 被後見人の実印
- 被後見人の銀行印
- 被後見人の認印
〇 押すべき印鑑
- 成年後見人の実印
- 成年後見人の銀行印(必要に応じて)
- 成年後見人の認印(簡易な手続きの場合)
この点を間違えると、契約が無効になったり、不適切な行為とみなされたりする可能性があるため注意が必要です。
被後見人の印鑑を求められた場合の対応方法
金融機関や取引先の中には、成年後見制度に詳しくない担当者も多く、「被後見人の印鑑が必要です」と言われることがあります。その場合、成年後見人は適切に説明し、正しい手続きを進める必要があります。
1. 成年後見制度について説明する
まず、「成年後見制度とは何か」を簡単に説明し、成年後見人が代理で署名・押印する仕組みであることを理解してもらいます。
説明例:
「成年後見制度では、被後見人に判断能力がないため、すべての法律行為は成年後見人が代理して行います。したがって、契約書などの書類には被後見人本人の印鑑を押すのではなく、成年後見人の署名・押印で手続きを進めることになります。」
2. 本人の名前と印鑑を勝手に使用できないことを伝える
成年後見制度では、被後見人本人が契約行為を行うことができないため、実印や銀行印を使用することもできません。もし成年後見人が勝手に本人の印鑑を使用すると、不正行為とみなされる可能性があります。
説明例:
「成年後見人は被後見人の代理人ですが、被後見人の印鑑を勝手に押すことはできません。それは法律上、不適切な行為とされるため、成年後見人自身の署名と押印で手続きを進めていただく必要があります。」
3. 成年後見人の署名と押印で手続きできるよう説得する
取引先や金融機関が納得しない場合でも、成年後見人の署名と押印で十分であることを粘り強く説明することが大切です。場合によっては、金融機関の上席者や法務部門に確認してもらうのも有効な方法です。
説明例:
「成年後見制度のルールに従い、被後見人の印鑑ではなく、成年後見人の署名・押印で手続きを進めていただくことが法律上の正しい方法です。他の手続きでも同様に対応されておりますので、ご確認をお願いいたします。」
4. 判断能力を欠く方の署名押印は法律上無効であることを説明する
被後見人の印鑑を押すことは単なる形式的な問題ではなく、法律上も大きな意味を持ちます。そもそも、判断能力を欠く被後見人が契約書に署名・押印しても、その契約自体が無効になる可能性があります。そのため、成年後見人の署名・押印が必要不可欠であることを伝えることが重要です。
説明例:
「被後見人の署名・押印があっても、その方には判断能力がないため、契約が無効となる可能性があります。逆に、成年後見人が代理で署名・押印することで、契約が適法に成立するのです。」
成年後見人の役割としての適切な対応
成年後見人は、被後見人の財産や権利を守る立場にあります。そのため、不適切な手続きや誤解を防ぐために、しっかりとした説明と交渉を行うことが求められます。
成年後見人として心掛けるべきポイント
- 成年後見制度に関する知識を深める – 制度の仕組みを理解し、正しく説明できるようにする。
- 冷静かつ丁寧に説明する – 相手が制度を知らないことを前提に、根気よく伝える。
- 金融機関や取引先の上席者に確認を依頼する – 担当者が理解しない場合、上席者に説明を求める。
- 契約の無効リスクを伝える – 不適切な押印が契約の無効につながることを明確に伝える。
まとめ
成年後見人が被後見人に代わって署名・押印を行う場合、成年後見人の署名と自身の印鑑を使用し、被後見人の印鑑は押さないことが基本です。もし取引先や金融機関から被後見人の印鑑を求められた場合は、成年後見制度のルールを説明し、適切に対応することが重要です。
成年後見人の役割を正しく理解し、適切な手続きを進めることで、被後見人の権利を守りながら円滑な契約締結を行うことができます。