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成年後見「首長申立て」急増の背景とは? 老後に備えるために今できること

近年、身寄りのない認知症高齢者の財産管理や福祉サービス・施設入所契約の必要性から、市区町村長が家庭裁判所に後見人選任を申し立てる「首長申立て」の件数が増加しています。2025年1月14日付の日本経済新聞朝刊でも、この動きが取り上げられていました。

本稿では、その背景にある社会的課題と、個人ができる備えについて考察します。

個人ができる老後の備え

「首長申立て」が必要となるケースの多くは、身寄りのない高齢者や、親族がいても関係が希薄・断絶している単身高齢者の方々です。しかし、成年後見制度を利用する前に、個人で備えておくことも可能です。

① 経済的に余裕のある単身高齢者の場合
法律専門職との契約
司法書士や弁護士と「見守り契約」「任意後見契約」を締結し、将来の認知症や脳梗塞・事故などによる判断能力の低下に備えることが有効です。
遺言の作成と死後事務委任契約
遺言を作成し、遺言執行者として法律専門職を指定することで、円滑な財産承継が可能となります。また、葬儀・納骨・永代供養の手続きを委任する「死後事務委任契約」を締結することも、将来に備えるうえで有効な手段といえます。

② 経済的に余裕のない単身高齢者の場合
地域とのつながりを持つ
近隣住民との交流を深めることで、緊急時に助けを求めやすくなります。
公的機関との関わりを持つ
市区町村の高齢者福祉課や社会福祉協議会、民生委員といった公的支援機関に早めに相談し、利用可能なサービスについて理解を深めておくことが重要です。

このように、自ら準備を進めることで、成年後見制度の利用を最小限に抑え、ご自身の意思を尊重した生活を維持しやすくなります。

成年後見制度と「首長申立て」の現状

成年後見制度は、原則として本人または4親等内の親族が後見人選任を申し立てるものですが、認知症などにより本人に判断能力がなく、さらに申立てを担う親族がいない場合、市区町村の高齢者福祉課や社会福祉協議会が対応し、最終的に「首長申立て」となります。

内閣府の「高齢社会白書」によると、2022年時点で認知症高齢者は約443万人に上るとされています。すべての認知症発症者が成年後見制度を利用する必要はありませんが、制度を利用することで生活が安定・改善する方々にとって、全国どこでもスムーズに制度を活用できる社会基盤の整備が求められます。

自治体による対応の違い

成年後見制度を積極的に活用する自治体と、そうでない自治体があり、地域差が顕著になっています。自治体の人口規模や財政状況により、支援ネットワークの構築・整備に必要な人員や財源の確保が難しいという課題があります。

「首長申立て」の件数が増加していることは、行政の支援体制が機能している証ともいえますが、単純に喜ぶべき話ではありません。むしろ、単身高齢者や障害者が自ら備えるための啓発活動を強化する必要があります。

成年後見制度は、本人の権利や財産を守る重要な仕組みですが、それ以前に、元気なうちから自ら備えることが何よりも大切です。社会全体で支え合う仕組みの充実とともに、一人ひとりが老後に備える意識を持つことが、今後の大きな課題となります。

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